あやこ先生の赤いネイル
高校二年生になった時、あやこ先生が赴任してきた。
当時全盛期だった、えびちゃんを彷彿とさせる美しく可愛い人だった。
他にも女性の先生はいたけれど、あやこ先生だけ下の名前で呼ばれていた。
男子生徒も女子生徒も、他の先生も、あやこ先生と呼ぶときはちょっとウットリしていたように思う。
先生は、ふふふと笑う笑顔が可愛らしかった。
あまり自分から話すタイプではなく、人の話を笑顔で聞いているだけで、
みんなが嬉しくなっちゃうような人。
ウブな私は先生へ話しかける言葉も思いつかず、
遠くから綺麗な人だなあと見つめているだけだった。
ソツがなさすぎて近寄りがたいと思っていた。
文化祭の準備をしている時に、普段見えないあやこ先生のつま先がたまたま見えた。
とても綺麗な真っ赤色の爪だった。
私は目を奪われた。
余りにもソツがないあやこ先生の
生々しい部分に触れた気がした。
大人の女だと思った。
私は先生に「綺麗なネイル!」なんて声をかけられる性格じゃなくて、
1人でドキドキしていた。
社会人になって、CHANELの赤いネイルを買った。
これを塗れば大人の女になれると思った。
でも、私が塗る赤いネイルは子どものイタズラのよう。
はみ出してしまう。
今度、ネイルサロンで真っ赤に塗ってもらおうかしら。
そんなことを考えながら、爪を赤く塗りつぶす夏の終わりの夜。